最高峰のダイヤモンド・カッティング・ジュエラーとして歴史に名を刻む「ロイヤル・アッシャー」は、トリリアント・カットやアッシャー・カット(スクエア・エメラルド・カット)など世に広く知られるカッティングを生み出してきました。そしてダイヤモンドへのあくなき情熱がもたらしたのが、国際パテントを擁する4種のオリジナルカットです。その唯一無二の誕生秘話を振り返ってきた連載ストーリー、最終回となる第5回はついに5種目としてお披露目された「ロイヤル・アッシャー・ペアシェイプカット」にせまります。
A Story of Eternal Beauty 05
ROYAL ASSCHER PEAR SHAPE CUT
ロイヤル・アッシャー・ペアシェイプカット
2024年秋、待望の5種目となるオリジナル「ロイヤル・アッシャー・ペアシェイプカット」が上陸を果たしました。6代目であるマイクおよびリタ・アッシャー共同代表の2人が心血を注ぎ、2020年に開発に成功。歴史に誇る「カリナンⅠ世」にインスピレーションを得たその輝きについて、マイク氏に尋ねました。
──5番目のオリジナルカットにペアシェイプカットを選んだ理由を教えてください。
リタと私は新しいダイヤモンドカットを開発するにあたって、当然ながらまず我々の伝統に目を向けました。そして、培われてきた技術によって、一般的なペアシェイプカットからどのような点が改良でき、真から美しいダイヤモンドを生み出せるのかを考えました。史上最大のダイヤモンド原石「カリナン」からカットされたなかでいちばん大きく、530.20ctを誇るカリナンⅠ世と呼ばれるダイヤモンドがペアシェイプカットでした。ですから、5つ目のパテント取得となるダイヤモンドカットにペアシェイプを選んだのは自然の流れとも言えるでしょう。
──「カリナンⅠ世」からはどのようなインスピレーションを得たのでしょうか。
「ロイヤル・アッシャー・ペアシェイプカット」は、1908年に3代目ジョセフ・アッシャーがカットに成功した「カリナンⅠ世」から着想を得て、その美しいペアシェイプを念頭にデザインされました。ジョセフが先見の明により生み出した当時のマスターカッティングをもとに、現代のテクノロジーを駆使しながら、ダイヤモンドの隠れた美しさを引き出す私たちの情熱の結晶として生まれたのです。
──一般的なペアシェイプカットとの違いは何ですか?
「ロイヤル・アッシャー・ペアシェイプカット」と一般的なペアシェイプの違いは、まずパビリオン側(ダイヤモンドの下側)に、キューレット(ダイヤモンドの先端)を囲むように作られた6つのファセット(ダイヤモンドのカット面)を擁していることです。ダイヤモンドの上部にあたるクラウン側は、通常のベゼルファセットを2つに分け、カット面を倍にするというさらなる改良が施されています。そうすることで屈折が増え、「ロイヤル・アッシャー・ペアシェイプカット」ならではの独特な光の反射を進化させています。
──「ロイヤル・アッシャー・ペアシェイプカット」の輝きの特徴を教えてください。
特許を取得したすべてのダイヤモンドカットにおいて、輝きと白色光の反射は、ダイヤモンドのトータルな美しさを生み出すためにもっとも重要な要素です。キューレットの周りに追加された6つのファセットとクラウン側の2つに分けたベゼルファセットにより、ユニークな光の反射が生まれ、ジュエリーにセットされた「ロイヤル・アッシャー・ペアシェイプカット」の美しさが際立ちます。
──「ロイヤル・アッシャー・ペアシェイプカット」は、ダイヤモンドのファセット面が76面体で構成されていますが、なぜ76面なのでしょうか。
これはファセットの配列が異なるためです。ラウンドブリリアントカットやオーバルカットなどのファセットのパターンと、ペアシェイプカットのファセットパターンは、配列が異なるため結果的に76面体になりました。ペアシェイプカットの配列パターンからすると、一般的な55面体のペアシェイプカットのクラウン側に11面、パビリオン側に10面を加えています。トータルで76面体にすることで、ダイヤモンドにより強い輝きを与えることができたのです。
──「ロイヤル・アッシャー・オーバルカット」では縦横比が1.4±:1でした。「ロイヤル・アッシャー・ペアシェイプカット」にはそのような縦横比はありますか?
はい、「ロイヤル・アッシャー・ペアシェイプカット」の縦横比は1.4-1.5:1を念頭にカットされています。
──「ロイヤル・アッシャー・ペアシェイプカット」の最終的なカットはアッシャーファミリーが独自に決められたのでしょうか。それとも「ロイヤル・アッシャー・カット」のときと同様に、世界中のダイヤモンドの専門家にも意見を聞いて決定されたのですか?
最終的なカットの決定は、いつも複数の専門的なコメントに基づいて行われます。ですが、もっとも重要なのは、父のエドワードがオフィスに来てダイヤモンドを目にしたときに、満面の笑みを浮かべて「ワオ!」と声を上げるかどうか。その反応を耳にして初めて、美しさとテクノロジーが融合された、完璧かつ最大の成果に到達したのだとわかります。
──エドワード・アッシャー氏が引退してから初めての開発になりますが、これまでの4つのオリジナルカットと「ロイヤル・アッシャー・ペアシェイプカット」に違いはありますか?
「ロイヤル・アッシャー・ペアシェイプカット」のファセットのパターンが他の4つのオリジナルカットと違うため、輝きをより引き出す改良を加えた結果、76面体となったことです。他の4つのオリジナルカットは74面体です。
またインスピレーションの元になったダイヤモンドが「カリナンⅠ世」であることも大きな特徴と言えるでしょう。
──「ロイヤル・アッシャー・ペアシェイプカット」への反響はいかがですか?
「ロイヤル・アッシャー・ペアシェイプカット」は、ペンダントやイヤリングなどさまざまなタイプのジュエリーに使用するのに最適な形状で、先がけて展開しているイギリスやアメリカでは、ジュエリーにいっそうの強い輝きを与えると高い評価を得ています。
──5つの主要なオリジナルカットが完成しましたが、さらなる新しいカットの開発も予定されているのでしょうか。
「ロイヤル・アッシャー」の創業170周年を記念して、アッシャーファミリーの6代目であるリタと私は、6種目となる新たなダイヤモンドカットを生み出すべきだと考えました。そして、オリジナルのエメラルドカットの技術改良に1年を費やした後、2024年10月に「ロイヤル・アッシャー・エメラルドカット」をイギリスで発表しました。反響も素晴らしく、現在はイギリス国内の多くの店舗で販売するにいたっています。
Text:Aiko Ishii