最高峰のダイヤモンド・カッティング・ジュエラーとして歴史に名を刻む「ロイヤル・アッシャー」は、トリリアント・カットやアッシャー・カット(スクエア・エメラルド・カット)など世に広く知られるカッティングを生み出してきました。そしてダイヤモンドへのあくなき情熱がもたらしたのが、国際パテントを擁する4種のオリジナルカットです。2024年秋、待望の5種目となるオリジナル「ロイヤル・アッシャー・ペアシェイプカット」の登場を前に、その唯一無二の輝きの誕生秘話を振り返ります。

A Story of Eternal Beauty 04
ROYAL ASSCHER OVAL CUT
ロイヤル・アッシャー・オーバルカット

2017年、5代目エドワード・アッシャーと6代目マイク・アッシャー親子は74面体からなる「ロイヤル・アッシャー・オーバルカット」の開発に成功しました。一般的に縦横比率の規定がないオーバルカットに一貫したカッティング基準を導入し、完璧なフォルムと理想の輝きをもたらしたその軌跡を、マイク・アッシャー共同代表に聞きました。

──「ロイヤル・アッシャー・オーバルカット」の開発におけるお2人の役割はどのようなものでしたか。

新たに美しいダイヤモンドを生み出すためには、2人が力を合わせ努力しなければなりません。それは、これまでに特許を取得してきたすべてのダイヤモンドカットにおいても言えることです。ファセットパターンのあらゆる可能性や、ファセット間の角度に関する数学的な計算について話し合い、最良の結果を得るために互いに挑戦し合います。

──なぜオーバルカットを進化させようと考えたのでしょうか。

オーバルシェイプのダイヤモンドに対する需要の高まりを受けて、「ロイヤル・アッシャー・オーバルカット」を開発しようと考えました。ダイヤモンド業界では近年、ファンシーカットダイヤモンドにいっそうの注目が集まっています。さまざまなファンシーカットについて、縦横の比率を標準化させるとともにファセットを追加してその美しさを最大限に引き出す必要がある。ロイヤル・アッシャーファミリーはそう考えています。

右から 名誉会長エドワード・アッシャー氏、現共同代表のマイク・アッシャー氏とリタ・アッシャー氏

──開発のためにどのような準備をされましたか?

どのようなパターンのダイヤモンドカットにおいても、その開発はインスピレーションの探求から始まります。何より重要なのは、縦横比の適切なバランスを見つけ出し、煌めきとブリリアンス(白い光)を最適化することです。どこからスタートし、どのファセットが大切なのか、私たちは主席研磨師と一緒に工程を計画します。また、それぞれのファセットの長さを理解することも肝心です。通常はダイヤモンドを横から見た際に下側にあたるパビリオン側からスタートし、次に上側になるクラウン側を見ていきます。

様々なシェイプのロイヤル・アッシャー・ダイヤモンド

──実際にどのような改良が加えられたのでしょうか。

「ロイヤル・アッシャー・オーバルカット」のためにファセット配置のさまざまな可能性を検討しました。最終的には、ラウンド(丸)とオーバル(長丸)というシェイプの違いはありますが、ファセットパターンが似ている「ロイヤル・アッシャー・ブリリアントカット」のために作成した(意匠登録のための)特許が適していることを発見しました。そして検証を重ねた結果、それが完璧であるとわかったのです。
「ロイヤル・アッシャー・ブリリアントカット」同様に、トップに8面、パビリオンに8面の計16面を追加した74面のファセットに改良されました。

──光学的な利点は何でしょうか。輝きは増しましたか?

光学的に見た「ロイヤル・アッシャー・オーバルカット」の利点は、ダイヤモンドから放たれるファイアー(虹色の光)とブリリアンス(白い光)が増したことです。ダイヤモンドのファイアーとブリリアンスはロイヤル・アッシャーがつねに追求してきた点で、より明るい輝きを放つようになりました。

──もっとも難しかったことはどんな点でしたでしょうか。

「ロイヤル・アッシャー・オーバルカット」の新しいパターンを生み出すにあたって直面した最大の難関は、追加したファセットを互いにつなぎ合わせ、ダイヤモンドの上部(クラウン側)と下部(パビリオン側)が噛み合うように完璧に組み合わせることでした。追加したファセットを寸分違わず配置するためには、熟練したダイヤモンド研磨師でも技術の修得に多くの時間を要しました。

──開発にはどれほどの時間がかかったのでしょうか。

ロイヤル・アッシャーが手がけてきた他のオリジナルダイヤモンドカット同様に、カットの開発から完成、そして特許の申請にいたるまで、約1年の時間を費やしました。

──74面というファセット数はロイヤル・アッシャーの歴史を見ても大きな意味を持ちます。あえて74面にしたのでしょうか、それとも偶然ですか?

74面のファセットを選んだのは偶然ではありません。1908年に3代目ジョセフ・アッシャーによりカットされた世界最大のダイヤモンド原石「カリナン」からインスピレーションを得ています。当時、ジョセフ・アッシャーは史上もっとも大きなそのダイヤモンドのひとつに、さらなる生命力とファイアー(虹色の光)、そしてブリリアンス(白い光)を与えたいと考え、ファセットを追加し74面体のカットを生み出しました。私たちはつねにこのインスピレーションを念頭に置きながら、ダイヤモンドカッターとしての優れた技術と、ロイヤル・アッシャーブランドの伝統や歴史との橋渡しをしています。

──完成した「ロイヤル・アッシャー・オーバルカット」には縦横の比率に1.4±:1という基準を設けたそうですね。

縦横比でもっとも重要なのは、ダイヤモンドの美しさと輝きを最大限に引き出すことです。もしこの比率が小さければより丸みを帯びたシェイプになりますし、長くなれば細長くなりすぎてしまいます。

──オーバルカットはどこの国で人気がありますか?

アメリカとイギリスでもっとも人気があり、次いでオランダでオーバルカットが好まれています。

──現在の「ロイヤル・アッシャー・オーバルカット」についてはどうお考えですか?

「ロイヤル・アッシャー・オーバルカット」は、私たちがこれまでに生み出してきたもっとも美しいダイヤモンドのひとつです。そのロマンティックなシェイプにとても満足しています。

縦横比の基準を設けたことにより、安定したフォルムの美しさと輝きを実現した「ロイヤル・アッシャー・オーバルカット」

Text:Aiko Ishii