オランダ王室より「ロイヤル」の称号を授けられた唯一無二のダイヤモンドジュエラー、ロイヤル・アッシャーが、英国王室研究家、にしぐち瑞穂氏に語っていただく『英国王室とダイヤモンド』〝ロイヤル・アッシャーが辿るチャールズ国王戴冠式までの軌跡″。
第5回は、2023年5月6日に執り行われたチャールズ国王の戴冠式について語っていただきます。

チャールズ国王、カミラ王妃
ご夫妻で迎える86年ぶりの戴冠式

2023年5月6日、ウェストミンスター寺院にて、チャールズ3世の戴冠式が執り行われた。

今年で御歳75歳と、最高齢で即位をされたチャールズ国王。

英国王室にとって、70年ぶりとなる歴史的な儀式であることは勿論、実は国王のみならず、王妃と揃っての戴冠式ということでは、86年ぶりのことなのである。

この日、英国で戴冠式を視聴したのは約2000万人。1953年のエリザベス女王の際の2900万人には及ばないものの、多くの人々が華麗な式典に注目したことはいうまでもない。

これまでに既に、過去の前例や今回の予定など、戴冠式について述べていることは省略するとして、式中最も重要かつ神聖なる戴冠シーンと、ロイヤル・アッシャーと深いゆかりのあるダイヤモンド、カリナンが登場する場面を中心にダイジェストでお伝えする。

バッキンガムパレスから
ウェストミンスター寺院へ

Photo by WPA Pool / Getty Images

10:20am バッキンガムパレスを出発し、ウェストミンスター寺院へ向け出発された国王夫妻。

選ばれたのは、最新の馬車。2012年に作られた、”ダイヤモンド・ジュビリー・ステート・コーチ”。ヒーターや、窓も電気式開閉と、まずは、設備が整った快適な馬車で式典のスタートが切られた。

印象的だったのは、近衛騎兵連隊とともに馬車を引く馬たち。実はこれらは、王室の馬車を引くために育てられた”ウィンザー・グレイ”と称される馬たち。加えてこの日は、鮮やかなロイヤルブルーの装飾が施されていた。

チャールズ国王が即位をされ王妃となられて以来、カミラ王妃のシンボルカラーが、このブルー。ゴールドの馬車を引く白馬にブルー。とてもノーブルで美しく映えていたのが印象的であった。

戴冠の儀式

Photo by WPA Pool / Getty Images

ウェストミンスター寺院に到着されると、お召しになったのが戴冠式ローブ。

クリムソン・ベルベットと、アーミンの毛皮があしらわれたもので、祖父ジョージ6世も1937年の戴冠式で着用されていたもの。

古代からの儀式に則り、まずは誓いの言葉。宣誓、聖書へのキスが行われた。

続いて精油の塗布。

最も神聖な儀式とされ、周りをスクリーンで囲み、プライベートで行われる。

オイルには、フィリップ殿下の母が埋葬されている、エルサレムのオリーブ谷で収穫されたオリーブが使用され、エリザベス女王と同様のレシピで作られた。

一方で異例なのが、動物性の原料を一切使用されていないこと。環境問題、自然保護や動物保護の観点から、国王の信念がうかがえる。

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GOD SAVE THE KING
(国王陛下万歳!)

Photo by WPA Pool / Getty Images

まばゆい金色のシルクで作られた”スーパートゥニカ”を着用しての叙任式。

そして、君主の権威の象徴である、オーブ(宝珠)が国王の手に。

続いて、国家との結婚を意味する、戴冠リング。

更には、権力と平和を意味する2つの王笏が手渡され、一つは左手にある鳩のモチーフが装飾されたもの。

そしてもう一つ。戴冠用グローブを着用された右手に輝く王笏こそ、世界最大のダイヤモンド原石からロイヤル・アッシャー がそのカットに携わったカリナンⅠ世がセットされたもの。530.2カラットを誇るペアシャイプカットのダイヤモンドで、”アフリカの星”としても知られている。

ついに、英国国教会の大司教であり、英国における人臣の宮中席次第1位、カンタベリー大司教による、戴冠の瞬間。

17世紀の豪華な王冠、聖エドワード王冠には、サファイアやルビーを含む、444個の宝石やジェムストーンがセットされている。

粛々とし、ピンと張り詰めた空気の中の戴冠。そして全てのレガリアを身につけられた直後、カンタベリー大司教の”God Save The King”の声が、歴史的な式典のクライマックスと言えるだろう。

この王冠、伝統的な王冠であるが、2.04kgというその重さゆえに、戴冠の時のみに着用され、ウェストミンスター寺院を出られる際には、大英帝国王冠へと被り変えられた。

カリナンⅡ世がセットされた
大英帝国王冠

Photo by WPA Pool / Getty Images

エリザベス女王の国葬時、棺の上に置かれていたことでも記憶に新しいが、聖エドワード王冠よりも軽く、着用の機会が多いため、君主の王冠といえば印象的なのは、こちらかもしれない。

その”大英帝国王冠”にも、世界最大のダイヤモンド原石カリナンからカットされた、カリナンⅡ世(317.4カラット)が正面中央に装飾されている。

それを彩るのは、スチュアート・サファイヤ、セントエドワード・サファイア、ブラック・プリンス・ルビーのほか、2868個のブリリアントカットダイヤモンド、17個のサファイア、11個のエメラルド、269個のパールなど。

戴冠式の、代表的レガリアである王笏と大英帝国王冠。ともにロイヤル・アッシャーがカットを手がけた王室の至宝をその手に、戴冠された国王のお姿を、この目で拝見できたことがとても喜ばしい。

戴冠式後の馬車パレードでも、
”大英帝国王冠”を着用

Photo by Charles McQuillan / Getty Images

戴冠の儀式終了後も同様に、大英帝国王冠とオーブ、王笏を持って馬車パレードへ。

行きとは異なる豪華絢爛な馬車、ゴールド・ステート・コーチ。

ジョージ4世以来、全君主の戴冠式で使用されてきた、格式の高い八頭立て馬車だが、その実、乗り心地があまり良くないことでも有名である。

チャールズ国王の右(窓側)にカリナンⅠ世がセットされた王笏が、左手にオーブが置かれていた。

ウェストミンスター寺院からバッキンガムパレスまで、約1.6kmのコースを4,000人の兵士とともに走る馬車パレードは圧巻であった。

カミラ王妃の王冠に飾られた、
カリナンⅢ世、カリナンⅣ世、カリナンⅤ世

Photo by UK Press Pool / Getty Images

歴史上初めて、戴冠式の王冠を”リサイクル”されたカミラ王妃。

時代の流れや国王の節約の精神やサステナビリティの活動を汲み、新たな王冠を作らず、チャールズ国王の曽祖母、メアリー王妃の王冠をお使いに。

当初そこにセットされていた、曰く付きのコ・イ・ヌールではなく、エリザベス女王が生前愛用されていた3つのダイヤモンドを使用して、アレンジされることが発表され、戴冠式当日のお楽しみとなっていた。

3つのダイヤモンドとは、カリナンⅢ世、カリナンⅣ世、カリナンⅤ世と、これらも言わずと知れた王室の至宝であり、ロイヤル・アッシャー がカットを施したカリナン・ダイヤモンド。中でも、ペアシェイプカットのカリナンⅢ世(94.4カラット)と、スクエアカットのカリナンⅣ世(63.6カラット)は、”グラニーズ・チップス”と称され、生前 エリザベス女王が2つをセットにしたブローチとして愛用されていたことでも有名。

グラニーズ・チップス

もう一つのカリナンⅤ世(18.8カラット)は、ハート型ダイヤモンドで、それぞれ形の異なるダイヤモンドを、どのようにお使いになったかというと、トップにカリナンⅢ世、真ん中にカリナンⅤ世。そして下部にカリナンⅣ世が施された。

カリナンⅤ世 Photo by Bethany Clarke / Getty Images

ペアシェイプを逆さにセットされたことで、ハート型との繋がりも美しく、スクエアカットが安定を示すかのよう。中央に小さなダイヤモンドを配したことで、上品な印象にも。

王冠デザインと3つのダイヤモンドの形、バランスが見事に融合し、カミラ王妃にお似合いになっていた。

戴冠式最後のハイライト
バルコニーで国王ご夫妻の王冠に
あしらわれていたカリナンII世〜Ⅴ世

Photo by UK Press Pool / Getty Images

戴冠式最後のハイライトは、バッキンガムパレスのバルコニーへのお出まし。

正式に国民の前で、国王夫妻としての立場を示すとともに、国民のために尽くしていくことを約束された場ともいえるであろう。

チャールズ国王、カミラ王妃お二人の頭上で輝く王冠には、世界最大のダイヤモンド原石よりカットされたカリナンⅡ世からⅤ世までの4つもの貴重なダイヤモンドが輝いていた。

ダイヤモンドの大きさは、責務の重さを意味しているようにも感じられるけれど、無事戴冠も終わった今、新国王夫妻の英国がスタートした。

リサイクル王冠のように時代に即し、フレキシブル。一方で、ダイヤモンドのように不変の価値を持つ伝統は大切に守り続けていきながら、チャールズ国王、カミラ王妃夫妻らしい、新たな英国に期待をしている。

PROFILE
にしぐち瑞穂(にしぐち・みずほ)
英国王室研究家、コラムニスト、スタイリスト。TVアナウンサーや雑誌等、スタイリストとして長年活躍。イギリスに魅了されロンドンに移り住み、帰国後は雑誌『25ans』やオンライン『ミモレ』で英国にまつわるコラムを連載。YouTubeチャンネル『ロイヤルスクープ』では王室情報を配信中。著書『幸せを引き寄せる キャサリン妃着こなしルール』(幻冬舎)

Text: にしぐち瑞穂  イラスト作画:コダママミ