オランダ王室より「ロイヤル」の称号を授けられた唯一無二のダイヤモンドジュエラー、ロイヤル・アッシャーが、英国王室研究家、にしぐち瑞穂氏に語っていただく『英国王室とダイヤモンド』〝ロイヤル・アッシャーが辿るチャールズ国王戴冠式までの軌跡″。
第4回は、英国王室とオランダ王室の女性たちのファッションとジュエリーについて語っていただきます。
ここまでの3回、アッシャー社が手がけた世界最大のダイヤモンド原石、「カリナン」に始まり、エリザベス女王陛下の戴冠式、またオランダ王室と英国王室との関係についてお伝えしてきたが、今回は、より具体的に、両国を代表する王室の女性方のファッションやジュエリーにフォーカスしていきたい。
9個の「カリナン」を所有する英国王室の君主だったエリザベス2世が、70年の在位期間の中でどのように至宝「カリナン」をあしらったジュエリーをお着けになっていたのか、またオランダ王妃と、英国王妃、皇太子妃の、ダイヤモンドジュエリーの着け方など、彼女たちのファッションとともにご紹介する。
エリザベス2世のシグニチャー・ジュエリー 「カリナン」
まずは、ロイヤル・アッシャーがカットに携わり、現在も英国王室の至宝として所蔵される9個の「カリナン」。
それらを、実際に公の場でお着けになっていたのは、エリザベス2世の統治下では、君主エリザベス女王のみであった。
まさに、「カリナン」が王室の象徴であったということがうかがえる。
では、そんな偉大なるダイヤモンドをどのように着用されていたのか。
ファッション・アイコンでもあった生前のエリザベス2世の「カリナン」スタイルを、まずご紹介しよう。
「カリナンⅢ世」&「カリナンⅣ世」=グラニーズ・チップス
王室の重要行事と記念すべきイベントで、ノーブルに着用
”グラニーズ・チップス”と称され、生前エリザベス2世が頻繁に着用されていた、「カリナンⅢ世」と「カリナンⅣ世」。
ペアシェイプカットで94.4カラットのダイヤモンドがカリナンⅢ世で、カリナンⅣ世は、63.6カラットのスクエアカット。
「カリナンⅠ世」が王笏、「カリナンⅡ世」は大英帝国王冠にセットと、レガリアに配されるほどの大きなダイヤモンドに続く大きさの2つを組み合わせたブローチを、いったいエリザベス2世がどのようにお着けになっていたのかというと、前回紹介したように、2018年ウィレム=アレクサンダー国王とマキシマ王妃が英国を公式訪問された際の晩餐会。
また様々な記念行事にも着用されており、中でも注目すべきは2012年のダイヤモンド・ジュビリー(即位60周年)イヤー。
記念の礼拝に出席された時のエリザベス女王の装いは、光沢のあるペールブルーのジャガードにシルクシフォンのスカーフがアクセントになったコートと同素材のお帽子。
控えめなお洋服の色に「カリナンⅢ世」「カリナンⅣ世」の輝きが引き立ち、とても高貴なスタイルだった。
ハート型「カリナンⅤ世」は、
幸せを願う装いに
2002年
ジャマイカ、モンテゴ・ベイ
18.8カラットのハート形ダイヤモンドの「カリナンⅤ世」をお着けになっているのは、2002年にジャマイカを訪問された際のエリザベス2世。
ライムグリーンにブルーのピンドットが、ポップで華やかな装いだが、この年は即位50周年という記念イヤー。
このように、「カリナンⅤ世」が配されたブローチは通常の公務で頻繁に愛用されていたが、中でも印象的なのは、2018年の孫ユージェニー王女の結婚式や、2020年6月に公開されたフィリップ殿下の99歳のお誕生日を記念したご夫妻のポートレートでの着用など、ハート型モチーフに相応しく、ハッピーかつ、友好的な機会にお着けになっていた。
実は先の「カリナンⅢ世」「カリナンⅣ世」とともにこの「カリナンⅤ世」が、来月5月に行われるチャールズ国王の戴冠式でカミラ王妃が着用される、”メアリー(オブ・テック)王妃の王冠”にセットされると、公式に発表された。
再び注目が集まることは間違いない。
「カリナンⅥ世」&「カリナンⅧ世」
セットで着用が基本
2002年02月18日
ジャマイカの総督の公邸で行われたレセプションに出席
11.5カラットのマーキースカットのダイヤモンド「カリナンⅥ世」と、6.8カラットのエメラルドカット「カリナンⅧ世」
エリザベス2世は、これら2つを組み合わせて着用されていた。
これは、2002年ジャマイカを公式訪問された際、総督公邸で行われたレセプションに出席されたエリザベス2世のファッション。訪問国に敬意を表され、フラッグカラーと同じ赤のドレスに、ブローチをコーディネート。(シルクのフロッキー仕様のシフォンドレスのデザイナーは、Karl Ludwig)
グローブやバッグなど小物は黒でコントラストをつけられていることで華やさが増している。
このブローチのサイズならば、エリザベス2世の定番、パールの3連ネックレスとも相性が良いことがわかる。
「カリナンⅦ世」
1981年 11月23日
チャリティイベント「ロイヤル・ヴァラエティ
・パフォーマンス」に出席
この時お着けになっているのが、8.8カラット、マーキースカットの「カリナンⅦ世」。
メアリー王妃がデリー・ダルバールのために作った、”デリー・ダルバール・ネックレス”の9個のエメラルドと一緒にセットされ、ドロップ型のカボション・エメラルドと並んで吊り下げられている。
エメラルドのイヤリングと共にデリー・ダルバール・パリュールとして、そして”ザ・ガールズ・オブ・グレート・ブリテン・アンド・アイルランド・ティアラ”を着用。
ダイヤモンドのティアラと、色目は控えめながら装飾が豪華なドレスの間で、エメラルドのグリーンがなんとも上品なアクセントとなっている。
華麗なる、英国&オランダ王室
王妃、皇太子妃ファッション比較
ではここからは、オランダ王室マキシマ王妃と、英国カミラ王妃、キャサリン皇太子妃、それぞれのファッションと、ジュエリーの選び方についてご紹介する。
まずはロイヤル・アッシャーの本社があるオランダから。
オランダ王室 マキシマ王妃のティアラ・ファッション
ウィレム=アレクサンダー国王の就任式にはロイヤルブルーの式服と、サファイヤ×ダイヤモンド
2013年4月30日
アムステルダム新教会にて、
ウィレム=アレクサンダー国王の就任式
2013年4月30日、母ベアトリクス女王の退位宣言により、即位されたウィレム=アレクサンダー国王。オランダにとって、123年ぶりとなる男王の誕生となった。
その就任式がアムステルダム新教会で執り行われた際のマキシマ王妃のお姿がこちらである。
歴史的なこの日、マキシマ王妃が選ばれたのは、1世紀以上も前からオランダ王室が所蔵するダイヤモンドとサファイヤの荘厳なティアラに、鮮やかなロイヤルブルーのソワレ。
イヤリングは、国王の叔母であるマルグリート王女のために、1901年にオランダ国民から結婚祝いとしてヴィルヘルミナ女王に贈られたサファイヤとダイヤモンドのティアラの宝石を使用して製作されたもの。
胸に輝くダイヤモンドの弓型ブローチに吊り下げられた大きなサファイヤも王室所蔵のサファイヤのパリュールの一部である。
高身長で気さく、親近感がありビッグスマイルがお似合いの、マキシマ王妃の基本スタイルは、鮮やかなカラーのお洋服にダイヤモンド×カラーストーンのジュエリーといったコーディネート。色やジュエリーに負けない、王妃の内面の強さを象徴している。
ダイヤモンドでビッグサイズが基本
カミラ王妃のシグニチャー・ティアラ
2023年03月29日
ドイツを公式訪問
先月末、チャールズ国王と共に、王妃となられて初の海外訪問を遂行されたカミラ王妃。
その際の晩餐会で着用されたティアラは、”グレヴィル・ティアラ”。
”ブシュロン・ハニーコーム・ティアラ”とも称され、元はブシュロンが、慈善家デイム・マーガレット・グレヴィルのために製作したもの。
エリザベス2世の母、クイーンマザーが生前愛用されていたもので、2007年からカミラ王妃も着用され、いわゆるシグニチャー・ティアラと称されるほど、これまでに最も多く着用されてきたティアラである。
エリザベス2世が所有されていた”ダイヤモンド・フリンジ・ネックレス”と合わせて、モノトーンにプリントが描かれたソワレを着用されている。
ドレスの色はダークカラーでシックだが、プリントのモチーフが華やかで、かつネックレスのフリンジと見事にマッチしている。
王妃となられて以来、一層ファッションなど見た目のイメージアップに磨きがかかる王妃とそれに関わるヘア・メイクなどのチームスタッフ達。
印象を華やかにするべく、エリザベス2世のようなシルバーヘアに、ダイアナ元妃のようなサイドに流れるボリューミーなショートヘアスタイルの王妃には、ダイヤモンドが豪華にあしらわれた大ぶりサイズのジュエリーがお似合いである。
故ダイアナ元妃と同様、
パール×ダイヤモンドのティアラを愛用
2022年11月22日
南アフリカ共和国の大統領が公式訪問
バッキンガムパレスにて晩餐会
昨年、2022年11月、南アフリカ共和国の大統領が訪英。バッキンガムパレスで行われた晩餐会に、皇太子妃として初めて出席された時のキャサリン妃。
勲章が引き立つよう、白のソワレを選び、そして愛用の”クイーン・メアリーズ・ラヴァーズ・ノット・ティアラ”をお着けになっている。
その名の通り、1913年にメアリー(オブ・テック)王妃が作らせたもので、その後エリザベス女王へと引き継がれたのちダイアナ元妃のお気に入りに。現在、キャサリン妃のシグニチャー・ティアラとなっている。
更に、ジェニー・パッカムのソワレに合わされたジュエリーは、ダイヤモンドから大きなパールが揺れるイヤリングと、4連のパールブレスレット。
どちらも、エリザベス女王が所有されていたもので、国家的重要行事に際しては、女王から貴重なジュエリーをお借りになっていたキャサリン妃。
一般出身という謙虚さの表れか、結婚式のティアラもそうであったように、ダイヤモンドオンリーのジュエリーの場合には、繊細なサイズやデザインを選ばれる。このようにダイヤモンド×パールが掛け合わされたものが、キャサリン妃の定番でありお気に入りである。
公務ファッション編
マキシマ王妃:ジュエリーもお洋服も、
カラーが基本の上級コーデ
2022年6月28日
オーストリアを公式訪問中、
ウィーンでコンサートへ
2022年オーストリアを公式訪問中、ウィーンでコンサートに出席された際のマキシマ王妃。
オーストリアのフラッグカラーの一色、赤を印象づけるケープ型のエレガントなソワレ(Jan Taminiauのデザイン)に、やはりここでも大きなネックレスを着用。
ドレスの赤に合わせて、ジュエリーも、ダイヤモンドに豪華なルビーがあしらわれたものを採用。
これらは、メレリオ・ルビー・パリュールの一つで、1880年代に製作され、オランダ国王ウィレム3世から妻、エンマ王妃へ贈られたもの。
イヤリングとブレスレット(右手首)、そしてパリュールの大きなストマッカーの一部をダイヤモンド・リヴィエール・ネックレスのペンダントとして使用され、このファッションのアクセントとして引き立っている。
左腕にも、王室所蔵のダイヤモンドのブレスレットを、そして見えにくいが、左サイドの髪には、王室所有の麦の穂モチーフのダイヤモンドを、髪飾りとしてお着けにもなっている。
ここでも、鮮やかな赤と黒といったコントラストの強い配色のお洋服に映える、大ぶりなジュエリーを着用されている。
2022年06月16日
幼児期に関するミーティングを主催
では、今度はキャサリン妃の公務スタイル。
幼児期発達に関するミーティングを主催された時のファッションだが、昨今とみに増えているのがパンツスタイル。中でも、このようにシャープで自立した女性の印象を与えるパンツスーツスタイルが急増中である。
基本的に明るい色をお召しになるキャサリン妃は、パンツスタイルでも同様。合わせるジュエリーは、繊細で小ぶりなサイズが中心。
目立ちすぎず、でも存在がわかる大きさ。そして着回しクイーンと称される妃だけに、使い回しがしやすいダイヤモンドや、パールを愛用されている。
この時お着けになっているのは、英国のクラウンジュエラー、マッピン&ウェッブのイヤリングとネックレス。1920年代のサイアム(旧タイ王国)の皇帝からインスパイアされたというデザインに職人の技巧が光る。
キャサリン妃にとってマストジュエリーは、揺れるドロップ型のイヤリング。胸元のデザインによってネックレスもセットで着用、というのが定番である。
そして、キャサリン妃のジュエリーといえば、最も有名なのは婚約指輪だろう。
プリンセスの婚約指輪
ダイアナ元妃の婚約指輪
サファイヤ&ダイヤモンドのリングを
常に公務で着用のキャサリン妃
2022年09月15日
サンドリンガム
言わずと知れた、キャサリン妃の婚約指輪といえば、ダイアナ元妃の形見であるサファイヤ&ダイヤモンド・クラスターのリング。
セイロン産で12カラット、オーバル型のファセット・カットのサファイヤの周りを、14個のラウンド・ダイヤモンドが彩ったリングは、「ガラード」製。
ダイアナ元妃の婚約指輪だったこのリングは、ビスポークでなく、カタログの中からダイアナ元妃ご自身が選んだという事実に驚きだが、この婚約指輪がトレンドとなり、現在に至るまでサファイヤ&ダイヤモンドのリングは人気となっている。
そんな亡き義理の母の想いがつまった婚約指輪を、キャサリン妃は常に公務の場でお着けになっている。
これは昨年エリザベス2世の逝去後、サンドリンガムの私邸前にたむけられた多くの献花をご覧になった際のキャサリン妃。喪中ゆえのブラックスタイルだが、ダイヤモンドが上品なアクセントに。
この時も勿論、左手薬指には婚約指輪が。また胸にはクロス・ネックレスも着用。更に、パールとダイヤモンドのイヤリングに至っては、エリザベス女王が所有されていたものと、女王への追悼の意も込められていた。
このようにキャサリン妃にとってダイヤモンドジュエリーとは、偉大なる義理の祖母や母の足跡をたどるとともに、代々受け継いでいくものなのだ。
マキシマ王妃の婚約指輪は、
オランダ王室の象徴 オレンジダイヤモンド
2016年03月11日
フランスを公式訪問
では、マキシマ王妃の婚約指輪についてご存知だろうか。
ウィレム=アレクサンダー国王の依頼で、オランダのジュエラー、ステルトマンがデザインしたもので、オランダに敬意を表し、プラチナリングのセンターストーンにオーバルカットのオレンジダイヤモンドが配され、その両脇をエメラルドカットのダイヤモンドと2列のパヴェ・セッティング・ダイヤモンドが、リング中央を囲むように並んでいる。
実は、このオーバルのオレンジダイヤモンドこそ、ロイヤル・アッシャー社がカットを手がけたものである。
そもそもオレンジのダイヤモンドは、オランダ王室の名であるオレンジ・ナッソー家にちなんだもので、オランダ王室の王位継承者に与えられる称号は”オレンジ王子”(または王女)。
よって現ウィレム=アレクサンダー国王も婚約・結婚当時は、オレンジ王子と称された。
英国キャサリン皇太子妃の婚約指輪が、”国民のプリンセス”と称されたダイアナ元妃の想いを受け継ぐものなら、オランダ、マキシマ王妃の婚約指輪は、王室を象徴するリングといえるだろう。
ピンクのドレスにペイズリー柄のコートといったカラフルな装いにも、オレンジダイヤモンドが高貴な輝きを放ち、王妃らしいファッションとなっている。
5月のチャールズ国王の戴冠式には、マキシマ王妃の出席も予定され、英国王室、オランダ王室の皆様の装い、そしてジュエリーにも注目したい。
次回は、いよいよチャールズ国王の戴冠式についてお伝えする。
PROFILE
にしぐち瑞穂(にしぐち・みずほ)
英国王室研究家、コラムニスト、スタイリスト。TVアナウンサーや雑誌等、スタイリストとして長年活躍。イギリスに魅了されロンドンに移り住み、帰国後は雑誌『25ans』やオンライン『ミモレ』で英国にまつわるコラムを連載。YouTubeチャンネル『ロイヤルスクープ』では王室情報を配信中。著書『幸せを引き寄せる キャサリン妃着こなしルール』(幻冬舎)
Text: にしぐち瑞穂 イラスト作画:コダママミ