オランダ王室より「ロイヤル」の称号を授けられた唯一無二のダイヤモンドジュエラー、ロイヤル・アッシャーが、英国王室研究家、にしぐち瑞穂氏に語っていただく『英国王室とダイヤモンド』〝ロイヤル・アッシャーが辿るチャールズ国王戴冠式までの軌跡″。
第3回は、オランダ王室と英国王室の絆について語っていただきます。

これまでの2回の連載で、世界中のジュエラーにも影響を与えたロイヤル・アッシャーの偉大な功績、最大のダイヤモンド原石カリナンのカットの成功について語ってきたが、今回はオランダ王室と英国王室との結びつきについてお話しをしたい。

オランダで生まれイングランド王となったウィリアム3世など、歴史的な繋がりも深いが、画像が存在するウィンザー朝第4代女王、エリザベス2世を中心に英国とオランダ両国の王室の関係をお伝えする。

Photo by Patrick van Katwijk / Getty Images

在位70年という歴史的在位記録をもつエリザベス2世にはじまり、妹マーガレット王女、キャサリン妃に至るまでの王族がオランダを公式訪問されている一方で、現ウィレム=アレクサンダー国王をはじめ、オランダ王族の方々の英国訪問も代々続いている。

そんな両国間の友好関係や訪問中の知られざるエピソード、またファッションには双方への敬意が示されてもいる。

『1958年 エリザベス女王陛下とフィリップ殿下がオランダ、アッシャー社を訪問』

パレードの様子 Photo by SIMON Michou / Getty Images

女王として即位をされてから6年後、1958年3月25日から27日までの3日間、オランダを公式訪問された、エリザベス女王陛下とフィリップ殿下。

その際には、第5代オランダ国王ユリアナ女王陛下が同乗され、馬車で群衆の前をパレードされた。

オランダを訪問中の、1958年3月25日。

ユリアナ女王の案内で、アッシャー社のダイヤモンドのカット、研磨を行う工場を見学されたエリザベス女王陛下とフィリップ殿下。

白黒画像により華やかなカラーが分かりづらいのは残念だが、お二人の女王ともに、時代のトレンドを象徴するカラフルかつ華やかなファッションにも注目。

エリザベス女王、ユリアナ女王ともに、小花が一面にあしらわれたヘッドピースをお着けになり、なんとも可憐で気品のあるスタイルである。

アッシャー社で、ダイヤモンドのロイヤル・サイファーをご覧になるエリザベス2世 Photo by Paul Popper/Popperfoto / Getty Images

アッシャー社に滞在中には、ダイヤモンドで再現されたロイヤル・サイファー・セット(君主のモノグラム)をご覧になったエリザベス2世。

この時、お二人の女王陛下たちと一緒に写っているのが、当時のディレクター、ヨープ・アッシャー。

この日、1908年に世界最大のダイヤモンド原石”カリナン”のカットに携わったアッシャー兄弟のうち、唯一人存命であったルイス・アッシャーとの対面は感動的なものであった。

ルイス・アッシャーの目がほとんど見えなくなっていることに気づかれたエリザベス2世が、左胸に輝くそのブローチを自ら外し、彼の手に触れさせたという、心温まるエピソードが残されている。

このブローチこそが、カリナンからカットされた9つのダイヤモンドの中の2つ、カリナンⅢ世(94.40ct)とカリナンⅣ世(63.60ct)であり、この2つを飾ったグラニーズ・チップスと称されるブローチである。

グラニーズ・チップス

『1965年 マーガレット王女がオランダ、アッシャー社を訪問』

アッシャー社を訪れたマーガレット王女 Photo by Les Lee / Getty Images

1965年5月19日、エリザベス2世の訪問から7年後、妹スノードン伯爵夫人(マーガレット王女)が、アッシャー社を訪問された。

その美貌だけでなくファッションセンスにも定評があり、ファッション界との関わりも深かったプリンセス。

アンゴラの上質素材にクラシックなデザインが60年代を象徴するジャケットに、着けられたブローチが、花の国オランダを象徴するフラワーモチーフであるのも訪問国への敬意がうかがえる。

『1982年 第6代オランダ女王ベアトリクスが英国を公式訪問』

エリザベス女王陛下(右)とベアトリクス女王陛下(左) Photo by Bettmann / Getty Images

1982年11月16日。ユリアナ女王の譲位によって、長女ベアトリクス王太子が即位をされたのが1980年。その2年後、女王として初めてクラウス王配とともに英国を公式訪問されたのが、この時。

到着後、バッキンガムパレスまで馬車でのパレードが行われた。

この年、即位から30年を迎えられたエリザベス女王陛下と、第6代オランダ国王として2年目のベアトリクス女王陛下が馬車に乗車。

24年前にはユリアナ女王陛下と同様に馬車に同乗され、母娘2代を通して、オランダ王室と英国王室の関係が、家族のように受け継がれてきたことがわかる。

『2011年 ロイヤルウェディングに出席したウィレム=アレクサンダー国王とマキシマ王妃』

ウィレム=アレクサンダー国王(左)とマキシマ王妃(右) Photo by Chris Jackson / Getty Images

ベアトリクス女王を母に持つ、第7代で現オランダ国王ウィレム=アレクサンダーと、その妻マキシマ王妃は、記憶に新しい2011年のロイヤルウェディング、ウィリアム王子&キャサリン妃の結婚式に出席をされた。

ユニフォーム姿で正装の国王と、ヌーディーなカラーのレースのスーツとフェザーのお帽子といった、気品溢れるファッションのマキシマ王妃。

主役を引き立てるべく、控えめな色で華を出されたファッションに、気遣いとセンスがうかがえる。

『2016年 キャサリン妃がオランダを公式訪問』

キャサリン妃(左)とウィレム=アレクサンダー国王(右) Photo by Samir Hussein / Getty Images

2016年10月11日。ご結婚から5年後のこの年、エリザベス女王の代理として初めてお独りでの海外訪問をされたキャサリン妃。その国こそが、オランダであった。

到着後最初に向かわれたのは、オランダ南部のワッセナーにあるエイケンホルスト宮殿。ウィレム=アレクサンダー国王の別荘で、いわゆるプライベートな場所。初のソロでの海外訪問で、緊張されているかもしれないキャサリン妃を気遣うかのごとく、この後ランチも含め、温かく歓迎された国王。

一方、ファッションを通じて訪問先への敬意を表すのがお得意のキャサリン妃は、この日オランダ国旗のうちの一色、ブルーを意識して選ばれたと思しきスーツ姿。その色が、国王のタイとリンクしているのも印象的である。

『2018年 オランダ国王ご夫妻が、英国を公式訪問&晩餐会』

オランダ国王ご夫妻と英国エリザベス女王陛下、チャールズ皇太子ご夫妻(当時) Photo by Patrick van Katwijk / Getty Images

2018年10月23日、ウィレム=アレクサンダー国王とマキシマ王妃が2日間、英国を公式訪問された。オランダ国王による英国への公式訪問という点では、なんと1982年のベアトリクス女王陛下&クラウス王配以来、なんと36年ぶりであった。

初日の夜には、滞在先でもあったバッキンガムパレスにて晩餐会が開催。英国の王族の皆様をはじめ政治家たちなどが最高位の正装で出席し、国王ご夫妻を歓迎。歓迎スピーチの中で、エリザベス2世は、「ヨーロッパとの新たなパートナーシップに向けて、私たちが共有する価値観と互いへのコミットメントこそが、最大の資産であり、変化の中にあっても、私たちの永続的な同盟関係が強固であり、革新者、貿易商、国際人として、自信を持って未来に目を向けることを示すものです」と述べられ、また、イギリスとオランダの緊密な関係は、「イギリスの経済や文化に大きく貢献している」とも賞賛。

一方ウィレム=アレクサンダー国王は、「EU離脱という決断を遺憾に思うも尊重する」と述べられ、また個人的に、2012年のロンドンオリンピックの開会式で、ダニエルクレイグ演じる007と並んで登場したエリザベス2世を、「史上最も大胆不敵なボンドガール」と称し、賞賛された。

更に「ここ数十年、自分の国やヨーロッパ、世界が大きく変化するのを見ながら、世界が激動する中で、英国は信頼のおける”狼煙”のような存在」と語られた。

エリザベス2世のサッシュには、至宝カリナンⅢ世&カリナンⅣ世 Photo by Patrick van Katwijk / Getty Images

ここで、エリザベス2世の装いに注目すると、ティアラは、1947年に祖母のメアリー王妃から結婚祝いとして贈られた”the Girls of Great Britain and Ireland Tiara”。3連のダイヤモンドネックレスは、1950年に父ジョージ6世がガラードに委託し、王室家宝のルース・ダイヤモンド105個を使用して作らせたもの。

そしてダイヤモンドのイヤリングに、ダイヤモンド&パールのブレスレット。更に注目すべきは、”オランダ獅子勲章”のブルーのサッシュに着けられた、大きなブローチだろう。この時エリザベス2世が、最も映える位置にお着けになっていたのが、やはりというべき「カリナンⅢ世」&「カリナンⅣ世」をセットしたグラニーズ・チップスであった。オランダ王室から授与された勲章とサッシュに、英国王室を繋ぐ最も象徴的なジュエリーを身に着けられていたのである。

マキシマ王妃のジュエリーも、英国王室ゆかりのもの Photo by WPA Pool / Getty Images

一方でマキシマ王妃も、ジュエリーに英国への敬意が表れていた。

この時選ばれたティアラは、スチュアート・ティアラ(the Stuart Tiara)と称されるもので、

元はスチュアート朝のイングランド王、ウィリアム3世とメアリー2世が所有していた、”スチュアート・ダイヤモンド”が使用されているティアラである。それが中央トップに輝く大きなダイヤモンドで、元々ブローチであったもので、取り外しが可能。TPOに合わせて、有無を選ばれているが、この場でお着けになったのは当然といえるだろう。

加えて、ウィリアム3世というのは、オランダで生まれ、父、自身ともにオランダ総督であった方。1688年の名誉革命でイングランド王となったという点からも、英国とオランダのゆかりは深い。

このように、外交の場でもジュエリーを通じて、両国の友好関係が表れているのである。

『2019年 エリザベス2世からオランダ国王への叙勲』

ウィレム=アレクサンダー国王(左)、エリザベス女王(中央)、マキシマ王妃(右) Photo by WPA Pool / Getty Images

2019年6月17日、ウィンザー城の聖ジョージ礼拝堂にて行われた、ガーター勲章の授与式。

これは、1348年にエドワード3世によって創立された英国最古の騎士団で、前年の英国公式訪問の際、エリザベス女王からウィレム=アレクサンダー国王へガーターを授与され、翌年のこの日、ガーターデーには、上級騎士として叙任がなされた。

この時、マキシマ王妃がお着けになっていたのは、夫が国王となった日に着用された、ダイヤモンドとピンクジェムストーンのジュエリーであった。

これが生前のエリザベス女王とオランダ君主との最後の対面となったことは遺憾だが、今後もチャールズ国王をはじめ、英国王室とオランダ王室との関係が代々続いていくことは間違いない。

PROFILE
にしぐち瑞穂(にしぐち・みずほ)
英国王室研究家、コラムニスト、スタイリスト。TVアナウンサーや雑誌等、スタイリストとして長年活躍。イギリスに魅了されロンドンに移り住み、帰国後は雑誌『25ans』やオンライン『ミモレ』で英国にまつわるコラムを連載。YouTubeチャンネル『ロイヤルスクープ』では王室情報を配信中。著書『幸せを引き寄せる キャサリン妃着こなしルール』(幻冬舎)

Text: にしぐち瑞穂  イラスト作画:コダママミ