最高峰のダイヤモンド・カッティング・ジュエラーとして歴史に名を刻む「ロイヤル・アッシャー」は、トリリアント・カットやアッシャー・カット(スクエア・エメラルド・カット)など今では広く知られるカッティングを世に生み出しました。そしてダイヤモンドへのあくなき情熱がもたらしたのが、国際パテントを擁する4種のオリジナルカットです。2024年秋、待望の5種目となるオリジナルカット「ロイヤル・アッシャー・ペアシェイプカット」の登場を前に、その唯一無二の輝きの誕生秘話を振り返ります。
A Story of Eternal Beauty 01
ROYAL ASSCHER CUT
ロイヤル・アッシャー・カット
1902年に開発された58面体の「アッシャー・カット」を1世紀におよぶ研鑽により進化させたのが、2000年にデビューを飾った「ロイヤル・アッシャー・カット」です。74面のファセットが導く精緻な美しさ。ロイヤルの称号にふさわしい煌めきの誕生ストーリーを、現名誉会長であるエドワード・アッシャー氏に訊きました。
──なぜ「アッシャー・カット」を進化させようと考えたのでしょうか。
1999年にサンディエゴで開催されたGIA(米国宝石学会)のシンポジウムに参加しました。1000人ほどの小売業者がいたのですが、私の名札を見て多くの宝石商が「あなたがアッシャー・カットのアッシャーさんですか? ぜひ売ってください」と言ってきたのです。我々がもう作っていないことと、四角いエメラルド・カットがすべて “アッシャー・カット”と称されている実情を説明しました。そうしてアムステルダムに戻ってから、弟のヨープ・アッシャーにアメリカではアッシャー・カットの需要が多くあるけれど、四角いエメラルド・カットのすべてがそう呼ばれているので、新しいものを作るべきだと話したのです。
──「アッシャー・カット」は国際パテントが切れた後に多くの企業が取り入れたのですよね。
よくお話ししますが、クリネックス氏も自分の名がティッシュになるとは思っていなかったはずです。特許がなくなってから誰もが四角いエメラルド・カットを“アッシャー・カット”と呼ぶようになりましたが、それは我が社への褒め言葉だと受け止めました。もちろん、お金は入ってきませんでしたけど。
──「アッシャー・カット」にどんな改良点を見出したのですか?
まずはより多くの光や反射、分散を誇る、さらに美しいカットに仕上げること。そして、USP(独自のセールスポイント)を持つために特許を申請することでした。出発点は昔ながらの発想ですが、そこに現代の技術を用いたのです。
──誰が「ロイヤル・アッシャー・カット」の開発に関わったのでしょう。
弟のヨープと私です。他の仕事は一切顧みず、2人がかりで2年の時を費やしました。完璧なものを生み出すために、ヨープはいつも私のすぐ側で判断し、鼓舞してくれました。
──開発の最初のステップはどのようなものでしたか?
リカットするために多くのスクエア・カットを購入したり、適切な原石を探すことから始まりました。その結果、プリンセス・カットでは重量のロスが大きすぎるため、高さのあるクラウンを持つスクエア・ステップ・カットのみが適しているとわかりました。また、新しいカットに理想的な原石の形状を見つけ出す必要もありました。
──理想のカットにたどり着くまでに2年間でどれほどのダイヤモンドが使われたのでしょうか。
原石からカットしたり、研磨したものをリカットしたダイヤモンドは100石以上におよびました。途中で割れてしまったものもあります。ひとつのファセットを変えるたびに、すべてのクラウンやパビリオンをカットし直さなければならなかったため、対称性を持たせることにも苦労しました。
カットが完成すると、光の損失を計測するために研究所に送り出しました。反射、屈折、分散の組み合わせを最大まで引き出した石を目指していたのです。
──多くのダイヤモンドのプロフェッショナルにも意見を聞いたと伺いました。
ほぼ完成に近づいた段階で、私はマスター・ポリッシャーに技術的なことはすべて忘れるように伝えました。彼は何を磨けばよいのかわかっていましたし、感性のすべてを注いで6つのダイヤモンドを仕上げてくれました。それから私は、これらの石を持って世界中を旅したのです(ポケットにダイヤモンドを入れて旅をしたのは、人生でもこのときだけです)。
顧客や同僚、そして競合他社にも意見を求めに行ったところ、誰もが一致して、最も美しい石としてひとつを選びました。そこで、そのダイヤモンドをもとに特許を申請したのです。
──「ロイヤル・アッシャー・カット」はどんな点で「アッシャー・カット」より優れているのでしょうか。
クラシックな「アッシャー・カット」の魅力に現代技術を融合したのが「ロイヤル・アッシャー・カット」です。螺旋を描くように中心へと惹き込まれる、あたかも万華鏡のようなカットが誕生しました。
──国際パテントはすぐに取得できたのでしょうか。
通常は時間がかかるものです。ダイヤモンドカットに関する他の全特許と比較しなければなりませんから。私たちは事前にすべての特許を研究していたため、簡単に取得することができました。
──「ロイヤル・アッシャー・カット」は、1908年にロイヤル・アッシャーがカットに成功した世界最大のダイヤモンド原石「カリナン」からカットされた「カリナンⅠ世」「カリナンⅡ世」とファセット数が同じ74面です。これは意図した結果か、それとも偶然ですか?
その両方と言えます。数百カラットの石と10カラット以下の一般的な石を比べることはできません。サイズからして大きな石はまったく別のものです。しかしながら、「カリナン」と同じファセット数でカットを改善できると私たちは考えました。問題は、それぞれのステップ(ファセット)に角度を加えるには何百万もの可能性があるということでした。ですから、技術だけでなく、自分の目で見て感じたことから判断せざるを得なかったのです。
──「ロイヤル・アッシャー・カット」を完成へと導いたものとは?
タイミングと技術、経験です。
タイミングとは「アッシャー・カット」を求める声が多かったこと。
技術は光のパフォーマンス測定が可能になったこと。
そして、ヨープと私のダイヤモンドカットの経験が豊富だったことです。
──「ロイヤル・アッシャー・カット」を世に送り出した際の反響はいかがでしたか?
仲間たちは皆、1945年以来最高の新たなダイヤモンドカットだと言ってくれました。
Text:Aiko Ishii